雑巾と水の昔ばなし
更新日:2025年06月06日 その他コラム
【おはなし】
むかしむかし、ギリシャの太陽がさんさんと照るオリーブの谷に、「ゾウキー」という名の小さな雑巾が住んでいました。
ゾウキーはふきんの村の中でもひときわ陽気で、いつも「ピカピカにすれば、みんなハッピーだよ~ん!」と鼻歌をうたいながら、棚や床や台所のすみっこを拭いて歩いていました。
一方、隣の村には「ミズィア」という名前のしずくの妖精が暮らしていました。
ミズィアはきらきらとした水の精で、すべての泉や小川に命を与える仕事をしていました。彼女はとってもおしゃべりで、「わたしって透明感が命なのよね〜」なんて言いながら、流れるたびに虹をまき散らしていたのです。
ある日、オリーブの谷に「大そうじの神ヘラクレア」が舞い降りました。ヘラクレアは、年に一度、神殿の大そうじを命じる神で、こう言いました。
「今年の大そうじは、ふきん族と水の妖精たちが力を合わせて行うべし。でないと神殿は、ホコリの神ボコリーに支配されるぞ!」
ゾウキーはぴょんと跳ねて叫びました。
「よっしゃー!こりゃ燃える展開ってやつだ!」
でも、ミズィアは不満げです。
「雑巾と一緒? ぬれるし、におうし、しわくちゃになるじゃないの~!」
こうして始まった、ふきんと水の共同作業。初日は大惨事でした。ミズィアはゾウキーを思いっきりびしょぬれにし、ゾウキーはむっとして言いました。
「ちょっと!ふきすぎたら、ぼくカビるでしょ!?」
「そっちこそ、ゴシゴシしすぎよ!わたしが飛び散って、せっかくの虹が台無し!」
その様子を見ていたヘラクレアは、神の石畳をゴンと蹴って言いました。
「協力せねば、ホコリの神ボコリーが目覚めるぞ…!」
その言葉のとおり、夜になると神殿の柱の奥からもくもくと灰色のもやが立ち上りました。
「ハハハ!人間どもめ、掃除のココロを忘れたな!」
もくもくの中から現れたのは、ホコリの神ボコリー。目は赤く光り、声はくしゃみ混じりでした。
ゾウキーとミズィアは、顔を見合わせてびっくり。
「…どうしよう、あんなのに神殿乗っ取られたら、もうオリーブの祭りできないよ!」
ゾウキーはしぼれた体をのばし、ミズィアはぷるぷるのしずくを整えました。
「ねえ…さっきはごめん。しわくちゃって言っちゃった」
「ぼくこそ。においとか、そんなの気にしてたら掃除なんてできないもんね」
二人は息をそろえて、戦闘モードに入りました。ゾウキーはミズィアのしずくをちょうどいい量だけしみこませ、ミズィアはゾウキーが拭きやすいように風を送りました。
「せーの!ピカピカアタック!」
ゾウキーは柱の汚れを次々に拭き、ミズィアは虹のしぶきで神殿をまぶしく照らしました。ボコリーは眩しさに目を細めて後退し、最後にはくしゅん!と大くしゃみ一発でふわっと消えてしまいました。
「やったー!!」
神殿はかつてないほど輝き、ヘラクレアも満足げにうなずきました。
「うむ。掃除とは、ただ磨くのではなく、心を通わせる儀式なのじゃ」
ゾウキーとミズィアは笑い合いました。
「水があるから、ふきんが生きる」
「ふきんがあるから、水が役に立つ」
その日から、ふきんの村と水の妖精たちは、年に一度、共同で「きらめきの日」と呼ばれる大そうじ祭りを開くようになりました。
~人はみな、少し相手の気持ちになってみることで、世界をもっときれいにできるよね~