重曹とキッチンのひみつ ~新たなる敵・サビール登場編~
更新日:2025年07月15日 その他コラム
【おはなし】
平和を取り戻したキッチン王国では、ジョウソウやクエン、ミント、メル、スポンジたちが力を合わせて、毎日せっせと掃除やお手入れに励んでいました。
「今日もピカピカだね!」
ジョウソウが満足そうに言うと、クエンもにっこり笑いました。
「みんながいるから、どんな汚れも怖くないわ!」
そんなある晩、キッチンの奥深くからギギィ……と、耳障りな金属のきしむ音が響きました。
「おや……いまの音、何だろう……?」
翌朝、コンロの奥の銀色の水切りカゴが、赤茶色に染まりはじめていました。
そこへ、ゆらりと現れたのは、赤茶色の体をした鋭い目の怪物。名を「サビール」というのでした。
「ヒヒヒ……わたしはサビール!金属をむしばんで弱らせる、さびの王だ!」
サビールの触れたところから、どんどん赤茶色のシミが広がり、ステンレスも鉄も、ボロボロとくずれていきます。
「なんてこと……!このままじゃ、キッチンが壊れちゃう!」
クエンが顔を青くして叫びました。ジョウソウも真剣な表情で前に出ました。
「みんな、下がって!サビは僕がなんとかする!」
しかしサビールは嘲笑しました。
「ふん!お前のアルカリの粉では、わたしには歯が立たぬ。サビを溶かせるのは“酸”だけなのだ!」
「酸なら、私がいるわ!」
クエンが前に出ようとした瞬間、サビールが鋭い声を上げました。
「だが甘いぞ!わたしのサビの盾は、ただの酸では簡単には溶かせぬのだ!」
サビールの体は、まるで鎧のように固く、クエンの酸のしずくは表面で弾かれてしまいました。
「どうしよう……!」
そのとき、ひそやかな声が聞こえました。
「ねえ、わたしも……手伝いたい……」
みんなが振り向くと、そこにいたのは、ほんのり甘い香りのハチミツの雫・メルでした。
「僕の力じゃ、きれいにはできないかもしれない。でも、僕には“ねばり”があるんだ!」
メルは、思いきり自分を絞り出し、トロトロの蜜をサビールの体に絡ませました。
「な、なにをする!?」
すると、サビールの鎧のすきまに、メルの蜜が流れ込み、わずかに表面が柔らかくなりました。
「いまだよ、クエン!」
ジョウソウが叫びました。
「わかったわ!」
クエンが再び、酸の力を振りしぼり、メルの蜜が溶かしたすき間から酸を注ぎ込みました。
サビールはみるみる赤茶色を失い、崩れ落ちていきました。
「うわあああっ!……この屈辱……」
サビールは細かい粉となり、風に乗ってキッチンの外へ運ばれていきました。
王国に再び光が差し込みました。水切りカゴも、コンロもピカピカに戻り、みんなは大きな拍手を送りました。
「やったね、みんな!メル、君がいなかったら勝てなかったよ!」
メルは、はにかみながら言いました。
「僕、べたべたするだけかと思ってた。でも……僕にしかできないこともあったんだね。」
その夜、ジョウソウはみんなに向かって静かに言いました。
「どんな敵が来たって、僕たちが力を合わせれば、きっと乗り越えられるんだ。だって――」
「――それぞれに、大切な役割があるんだもの!」
クエンが笑いながら続けました。
こうしてキッチン王国はまたひとつ強くなり、仲間たちの絆はさらに深まったのでした。