たけぼうきのお話
更新日:2025年06月09日 その他コラム
【タイトル】
たけぼうき
【おはなし】
むかしむかし、山あいの静かな村に、「たけぼうき」と呼ばれる一本の竹箒がありました。
たけぼうきは、ふるいお寺に仕えるおばあさんが長年使っていたもので、柄はつるつる、先の竹はすっかり磨り減っていました。
けれど、どんなに古くなっても、おばあさんは大事にして、朝晩の掃き掃除に使っていました。
「今日もよく働いたね、たけぼうき。おかげでお堂がぴかぴかだよ」
たけぼうきは、そんなおばあさんのやさしい言葉が大好きでした。
しかし、ある日——おばあさんは体をこわしてしまい、山を降りることになりました。お寺には若いお坊さんがやって来ましたが、たけぼうきを見てこう言いました。
「こんな古ぼけた箒、もう使いものにならないよ」
たけぼうきは、寂しく物置の隅に立てかけられました。
それから、月日は流れ……。
ある日、山を越えた町から、大風が吹いてきました。木の葉は渦を巻き、土ぼこりがあちこちに舞い、お寺の境内もあっという間に散らかってしまいました。
「こりゃ大変だ、掃除が追いつかない!」
若いお坊さんがあたふたと新しい箒で掃きはじめましたが、軽すぎて風に飛ばされてしまいます。
「こんな日に限って……ああ、どうしたらいいんだ」
そのとき、物置の奥から聞こえてきたのは、きしむような声でした。
「わたしに、まかせてください」
たけぼうきが、自ら立ち上がったのです。
「こんな古い箒が……?」
お坊さんは半信半疑でしたが、たけぼうきはゆっくりと、けれど確実に境内を掃き始めました。重みのある竹のしなり、長年の使いこまれた柄が手に馴染み、どんな強風にも負けません。
「……すごい。まるで風と踊ってるみたいだ」
たけぼうきは、黙々と掃きつづけました。まるでおばあさんの「ありがとう」の声が風に乗って聞こえてくるようでした。
夜が明けるころには、お寺は元通り、静かで清らかな姿に戻っていました。
「ありがとう、たけぼうき。本当に、助かったよ」
それからというもの、若いお坊さんは毎朝たけぼうきに声をかけながら、いっしょに掃除をするようになりました。
「おはよう、今日もよろしく頼むよ」
たけぼうきは、誇らしげにキィ、と音を立てて応えました。
(教訓)たとえひとりでも、自分にできることをあきらめずにやれば、やがて誰かの役に立てる日がきっときます。